binxの日記

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映画『宇宙でいちばんあかるい屋根』 ネタバレあり感想・考察

  

『宇宙でいちばんあかるい屋根』

uchu-ichi.jp

 

あらすじ

 隣に住む大学生・亨(伊藤健太郎)に恋する14歳の少女・つばめ(清原果耶)。父(吉岡秀隆)と育ての母(坂井真紀)の二人の間に赤ちゃんが生まれ、学校では元カレの笹川(醍醐虎汰朗)とのトラブルがあり、どこか疎外感を抱えるつばめは書道教室のあるビルの屋上で一人っきりで過ごすのが楽しみだった。そんなある日、つばめは屋上で派手で謎めいた老婆・星ばあ(桃井かおり)と出会う。つばめは自由奔放な星ばあにいつしか心を開くようになっていた。

 

ネタバレあり感想・考察  

この作品は、結構捉えどころのない作品です。主人公の人間関係が物語の軸となりますが、それが物語に大きな展開を引き起こす、ということはありません。感情を激しく波打たせるような演出はないといって良い。  

 ですが私はこの作品がとても気に入りました。むしろその「捉えどころのなさ」こそが大きな特徴の一つだとすら考えます。基本的に主人公の人間関係は、単純に分けて二つあります。一つは屋上で出会った謎めいた老婆「星ばあ」との関係。もう一つは隣に住む憧れの大学生・亨との関係。この二つになります。

 私はまずこの星ばあとの屋上での出会い、という箇所に惹かれました。冒頭、この映画は数限りなくある家々の「屋根」を映し出します。その画一的な街という空間、そこに溶け込みながらも同時に街を俯瞰できる場所、それこそが屋上です。言ってしまえば半分くらい浮世離れした空間として屋上が設定されているのです。さらにこの屋上という空間からは街だけでなく、星空も眺められます。つまり日常的な「街」と遠く離れた「星空」という二つの場所の境界として屋上という舞台設定が効果的に機能しています。

 さて、そんな舞台設定を基にどんな物語が編み出されるのか。星ばあと密かに想いを寄せる大学生・亨の二人との関係を軸にしています。ここで注目したいのは、つばめとこの二人との関係が屋根/星空の隠喩となっていることです。 大学生の亨は、同居している姉のことで悩んだり、そのことが原因で事故にあったりと大変な目に遭います。つばめは憧れの存在である亨が現実的な悩みを抱える姿に向き合うことになります。(それでもなお、亨を慕う気持ちが変わらないところがまた良いのですが)つまり亨という存在は「現実」を象徴しているのです。 一方で星ばあは登場シーンからしてどこか非現実めいています。その名の通り、星々をくらげのごとくフワフワと漂いますし、終盤も不可思議な糸電話として、その存在感を放ちます。こういう点を見てみると、星ばあは「非現実」を象徴しています。そしてこの現実/非現実という対称性は、屋根/星空という対称性に通じます。つまり、これらの関係性を整理すると以下のようになります。

 

現実・亨・屋根/非現実・星ばあ・星空

 

 こういう構図が成り立つわけです。しかしここでちょっと待てよ、もう一人大切な登場人物を忘れているのではないかという疑問が出てきます。そうです、つばめの元カレ、笹川です。 この笹川という存在についてはつばめのシャドー的存在と言えます。以前付き合っていた、つまり恋愛対象だったということから亨との共通性が若干見いだされます。また、星ばあとの血縁関係があり、星ばあとの関連性もあります。やや強引な感じもしますが、笹川もこの二人(亨と星ばあ)をつなげるもう一人の人物と考えて良いでしょう。

 まとめ

 本作は中学生の少女・つばめと年上の星ばあの不思議な友情を描いたものと言えます。それに加えて少女の様々な思い、感情が叙情的に映像化された作品である。端的に言えばそういう感じでしょうか。