binxの日記

主に映画、本やゲームについての感想を書きます

2020年上半期映画ベスト10 

今週のお題「2020年上半期」

 少し前に2020年上半期映画ベスト10、みたいなツイートをしました。ちょうど今週のお題が「2020年上半期」なので、ツイッターではのせられなかった各映画の感想について書いていきます。ただ、今年は四月以降に新作映画の公開本数がぐっと減ったので基本的に三月までに公開された映画についての話になります。

 

 

 

 

 1『パラサイト 半地下の住人』

 

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 昨年カンヌ映画祭パルムドールを受賞して大きく話題になった映画。この作品、ジャンルは何?と言われたら答えるのに迷ってしまう。全体的に見ればサスペンスだが、笑わせられるシーンも結構ある。そもそもの設定は金持ちの家庭と貧乏な家庭だ。その鮮やかな対比は今この世界で進む「格差」という社会問題を浮き彫りにする。途中にはミステリのように謎が提示されて(ひれも実にホラーテイストな謎だ)その謎の答えがまた社会的な問題につながったものだ。うかつなことは言えないが、今後この作品のような「ジャンル融合型」とでも呼ぶべきものが映画界の主流になっていくのかもしれない。

 

2 『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』

 

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映画『ヒックとドラゴン』三部作の最終章。このシリーズは他にもテレビシリーズがある。時系列は下記のようになる。

ヒックとドラゴン』→テレビシリーズ(『バーク島の冒険』→『バーク島を守れ』→『新たなる冒険』)→『ヒックとドラゴン2』→『ヒックとドラゴン 聖地への冒険』

 ただ、上の時系列通り観る必要はない。とりあえず映画版の方から観て、それで興味をもったらテレビシリーズも観ていく、という流れで良いと思う。何しろテレビシリーズは合計百話以上あるので挫折する可能性が大いにある。

 さて、第一作公開時からずっと偏愛しているこのアニメ。その最終章なのだから期待は否が応でも高かった。結論から先に言えば、本作はその期待に完璧なまでに答えてくれた。ドリームワークスが独自に開発したエンジンを駆使して描かれる世界観は実写のごとき迫力を持ちつつも間違いなく異世界としての説得力を持ったものとなっている。シリーズを通して一貫してドラゴンたちのデザインは可愛らしさとかっこよさを巧みに同居させている。語りだしたらいくらでも魅力が出てくる作品、それが『ヒックとドラゴン』だ。

 

3『テリーギリアムのドン・キホーテ

 

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 永久に完成しないのではないのか、誰しもがそう思っていたであろう幻の傑作がついに完成した。セルバンテスの『ドン・キホーテ』を下敷きにしているが、内容はいつものギリアム節全開の、絢爛豪華な悪夢のような映像が味わえる。

 

4『リチャード・ジュエル』

 

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 クリント・イーストウッド最新作。社会になじめない男が、自らの無実を証明していく様子が感動的だ。ただ、イーストウッド作品には珍しく、分かりやすい「悪役」を配置しているところが意外だった。戦争映画だろうと何だろうと、いかなるジャンルの映画でも価値観を押し付けない絶妙なバランス感覚を持つイーストウッドだが、趣向を変えてみたのだろうか。

 

 

5『サヨナラまでの30分』

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 青春モノの邦画の収穫。根暗で無気力な大学生の主人公と、志半ばで亡くなったバンドマンの幽霊。ひょんなことで出会った二人が、バンドメンバーも巻き込みながらドラマを繰り広げる。カセットテープというややレトロな雰囲気の道具を中枢に置く設定がいい。全篇通して爽やかさを保ちつつ、失われた仲間というテーマも並立することでほろ苦さや切なさも出している。そこに私はこの映画の巧みさを感じるのだ。

 

6『フォードvsフェラーリ

 

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 タイトルからすると、フォードとフェラーリの熱い戦いを想像するだろう。確かにそれは間違っていないのだが、基本的に物語はフォード社側の視点で描かれる。フェラーリ社はあくまでも超えるべき壁として出てくる。迫力あるレースシーン、レーサーはじめレースに携わる人たちの熱い思いがひしひしと伝わってくる一本。

 

7『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』

 

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 前作『この世界の片隅に』から大幅な追加シーンによって、より原作に近いものとなっている。前作との違いは「女性」というテーマが全面に押し出されているという点だろう。前作だけを観れば主人公・すずと夫の周作は仲睦まじい夫婦だ。だが追加シーンにより、二人の間にも「仲が良い」だけでは片づけられない複雑な感情や葛藤があったことが伝わってくる。これを観たあと、前作がいかに原作からカットするシーンを巧妙に選んでいたのか良く分かる。監督が表現したかったものが余さずに描かれるこの映画、長尺だが大勢の人に届いて欲しい。

 

 

8『劇場版SHIROBAKO

 

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 あくまでも「劇場版」なのでテレビアニメシリーズを観ていることが前提となる。ハリウッドを舞台にしたハリウッド映画が面白いように(『サンセット大通り』、『ザ・プレイヤー』、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』などが私の好み) アニメ制作現場を舞台にしたアニメもまた面白い。とはいえ私が上述したハリウッド映画のような業界の闇に迫るような作品ではない。むしろ真逆で、『SHIROBAKO』はずっと素直に、アニメ制作の喜びや悩みを直球で描いてくる。葛藤や幸福、そういった作られる過程の物語を知っているからこそ、ほんの一部しか出てこない劇中作に私は心動かされたのだろう。

 

 

9『黒い司法 0%からの奇跡』

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 ここ最近のアメリカでの黒人問題とそれに関する大きな動きを見ていると、どうしてもこの映画のことを思い出してしまう。「黒人だからきっと人を殺したに違いない」そういう偏見に満ちた考えでロクな裁判も行わずに死刑が執行される。そのような状況に真っ向から挑む弁護士と被告の姿には言い知れぬ敬意を感じた。この映画は実話がベースになっている。いまだなくならない人種差別だが、それを少しでも変革していこうとする人たちがいる。そういう人たちのことを知るきっかけとなっただけでも、この映画を観る価値は十二分にあったと断言できる。

 

 

10『彼らは生きていた』

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 第一次世界大戦の記録映像を色付けし、さらにフィルムの速度も調整、見事に現代に通じる映像に仕立て上げた映像作品。単純に「映画」として評価するべきかどうかは迷ってしまう。ただ間違いなく「映画」というもの在り方の可能性を広げた作品だ。

 

 

以上、2020年上半期映画ベスト10でした。他に面白かったのは『初恋』や『ジョジョ・ラビット』あたりでしょうか。中々新作が公開さなくなっていますが、下半期はもっと面白い作品に巡り合い、そして紹介できればと思います。