今敏監督について
今からちょうど十年前。今敏監督の訃報を耳にした。
当時の私は映画もアニメもまだそこまで知らず、今敏という名前も聞いたことがあるな、くらいのものだった。作品を観たこともなかった。だが、その名前を(訃報という悲しい形でだが)改めて知ったのも何かの縁、この際その作品も観てみようと当時の私は思った。
そして私は今敏作品を観た。
まず最初は『パプリカ』だった。観て瞬時に、その世界に引き込まれた。だまし絵のような巧妙で見事な画面作り、中毒性の高すぎるサウンドトラック、画面を埋め尽くすカラフルな魑魅魍魎たちが闊歩する狂気のパレード・・・・・・そのすべてに虜になった。
それから私は『千年女優』『パーフェクトブルー』『東京ゴッドファーザーズ』『妄想代理人』、短編『オハヨウ』と次々と観ることになる。どれも夢中になった。
一通り観てしまうと、一抹の寂しさを感じた。もうこれほどすごい今敏監督の新作を観ることはできないのだな、と。当時はまだ『夢みる機械』の制作が進行していたが、それでもやはり純粋な「今敏」作品はもう生まれないのだという現実を痛感した。
それから程なくして、漫画家時代の今敏作品が相次いで刊行された。『海帰線』『オーパス』『セラフィム』そして短編集『夢の化石』だ。
どれも今敏の創作者として確かな技量が感じられる、そんな優れた漫画作品だった。特に『オーパス』は後の映像作品を彷彿とさせる要素が随所にちりばめられて、まるで今敏の新作に出会えたような、そんな気分になった。
漫画も読んでしまい、今度こそ今敏の新作にはもう出会えないのだ。そんな私はある日ふと思いついた。今敏が亡くなる直前、ブログで紹介されていた百本を超える映画。
「夢みる機械」班が選ぶ映画100・前編
http://konstone.s-kon.net/modules/notebook/archives/551
「夢みる機械」班が選ぶ映画100・後編
http://konstone.s-kon.net/modules/notebook/archives/558
親切なお節介
http://konstone.s-kon.net/modules/notebook/archives/562
今敏がどのような気持ちでこれらの映画を紹介したのか、もはや知る手立てはないが、多分自分のファンたちに観て欲しい作品なのだろうなと当時の私は考えた。
よし、それじゃ一つこれらの映画全部制覇してやるか。
新作が観れないなら、せめてこのリストにある映画でも観てみよう。そう思った。このリストの映画のほとんどを当時の私は観ていなかった、というかそもそも知らなかった。多分、その時点で観ていたのは『ターミネーター2』と『激突!』だけだったと思う。
そういうわけで私はこのリストの映画を一つずつ観ていくことにした。映画初心者の私にとってこのリストは、まさに水先案内人のごとき役割を果たしてくれた。黒澤やキューブリック、タルコフスキーと言った有名どころの映画を知るきっかけになったのもこのリストだ。他にも『カープの世界』『リトル・ミス・サンシャイン』『ミラノの奇蹟』『愛が微笑むとき』などはこのリストの中でも特にお気に入りの作品だ。
このリストがなかったとしてもいつかどこかでこれらの名画には出会えたかもしれない。だが、映画の世界を知ったばかりの自分が、そのタイミングでこれらの優れた作品に触れることができたのはひとえにこのリストのおかげなのである。
あれから十年が経った。名画から最新作、B級映画といまや私は何でも観る雑食映画ファンである。その映画ファンの私の土台の中に今敏という存在は着実に息つづいている。